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■2008.08.23 サクラ 
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                            ※裏描写があります。閲覧は自己責任でお願いします。

なんだ夢かって。

いつも思う。



目が覚めたら、小さなシングルベッドに一人

夢が幸せだった分、そのギャップに泣かされる。


きっと、もう、限界なんだろう。





Substitute  







鼻先に

チラリと桜の花びらが乗った。

それを摘み取ると、薄紅色の愛らしい様相に、なんだかあの人を思い出した。

お前が変わりに、俺を送り出してくれるの?


たくさんの仲間に囲まれて

なんどもカメラの被写体になって

俺の胸元では、何人もの友人達がクスンと鼻をすすっているのに


どこまでも、ただ只管に孤独だった。




「あれ。校門の所にいる女の子・・・あの制服って・・・どこの?」

ふいに誰かが、そう言った。

「誰か待ってんじゃね?って、うわ、すげー可愛いんですけど・・・。」

可愛い、に反応して俺が顔を上げる。

相変わらずねと誰かが笑うけど、違う、相変わらず・・・なんかじゃ、無いんだよ。



「らんちゃ・・・・・。」


目を見開いて、ポソリと呟いた声は、本当に小さかったらしく

周りにいた友人達には聞こえなかったらしい。


俺の視線にきづいた彼女は、ちょっと嬉しそうな顔をすると

(あとで)

と口だけで唱えて、そっと門から姿を消そうとした。

今考えると、卒業式に友人に囲まれていた俺を気遣っての事だったんだろうケド

突然現れた、一番会いたかった人が

また突然姿を消してしまった事実に焦った俺は


「まてよ!蘭ちゃん!!」

思わず彼女に向かってその一歩を踏み出してしまった。





「か・・・快斗君。ごめん卒業式なのに・・・・。」

「いいよ。もう終ったし?それより・・・どうしたの。」

蘭ちゃんが、俺の学校に来るなんて初めてのことで。


「・・・・・・あ・・・・あの・・・・・。」

何か言いたげだけれど、どう言っていいのかわからないようで

そして背後にいる俺のクラスメイト達の視線も気になる様子で押し黙る。



「あー・・・・どっか、行こうか?」

「うん・・・でも、本当にいいの?みんなとお別れの挨拶・・・しなくて。」


気がかりな蘭ちゃんの様子に、あぁと思いつく。

・・・・・知ってんだな。












「おぉ!誰もいねぇ!!」

平日の公園は、随分人もまばらで。

遊具なども何も置いていない、ただ桜が只管綺麗なだけの場所なので

子供連れの姿も見えなかった。


「結構穴場?」

ニカリと笑って蘭ちゃんを振り返ると、可愛い唇を尖らせている。


・・・・やっぱ・・・怒ってる・・・よな。


「はいこれ。蘭ちゃんレモンティーね。」

飲み物を買ってあげたって、彼女の口角は上がりそうも無い。

「座らない?」

小さめのベンチを見つけて促すと、ソッポをむいたままそれに従ってくれた。



・・・それにしても、蘭ちゃんて

・・・こんなに素直な表情をする女の子だったっけ?





マジックを見せると手をたたいて喜んでくれたり、

学校の話なんて聞かせてやると、目じりに涙をためて笑い転げてくれたり

嫌な事なんてあっても、寂しそうに微笑んでくれたり


・・・思い出すのは、笑ってる顔ばっかりで。


それがとにかく辛くて、切なかったんだけど。





「・・・・どこ行くの。」

ぽつりと蘭ちゃんが呟く。




どこでも良かった。

ただ、君と君の恋人が

ますます幸せになっていく、その過程を

ツマラナイと感じる自分が嫌だったから。



「へへ。・・・・どうしてわかったの?」

「快斗君のお友達が話していたのをね、聞いたの。」


ったく、おしゃべりなヤツラばっかだなぁ・・・


「大学・・・そんな遠い所に行くなんて、聞いてない!」

「あー・・・言ってなかったっけ?」

「聞いてない。・・・・酷いよ・・・・こんな大事な事、黙ってるなんて・・・・。」



蘭ちゃんの声が震える。


けど



「言ったら、ついて来てくれた?」



酷い?

俺が?


急になんだか、とても腹が立って

もしかしたら自分で思っているよりも、強い口調になってしまったのかもしれない。



「な・・・・。」

思わぬ反撃に、蘭ちゃんが大きな瞳をさらに見開く。




俺も

いつも笑ってた。蘭ちゃんには、笑った顔しか見せたことが無かった。


・・・だけど、もう。



「蘭ちゃんさ、自分ですげー残酷な事してんの。きづいてんのか?」



止まらない。

何も言わずに君の前を去ることが

俺からの餞だったのに


いつも蘭ちゃんを泣かせていたあの名探偵を見ていたから

俺は、ただ只管蘭ちゃんを笑わせてあげようと心に誓っていたはずなのに




いつのまに

・・・こんなにも




「・・・・快斗君・・・・?」

蘭ちゃんの表情を見る事は、もう不可能で。

だけど、きっと酷く戸惑った顔をしているんだろう。




「・・・ごめん。明日には発たなきゃなんねーから・・・帰るな。」


告白なんてしない。

これは、蘭ちゃんに初めて会ったときから決めていたこと。



そうだ、逃げるんだよ。


目の前のやりきれない真実に背を向けて、たった一人。

俺はベンチから音をたてて立ち上がり、いまだ動けないでいる蘭ちゃんを見ることも無く

一人暮らしのアパートへと足を向けた。




















チャイムが鳴る

時計を見やると、23時・・・・。

なんだもうこんな時間かよ。





「・・・だれ?」

玄関のモノといっても、安いマンションのそれ、とても薄いドアだ。

ドア越しに話しても十分聞こえる。


「・・・・蘭です。」








なにぃ!?




思わず思い切りドアを開けると、蘭ちゃんが瞳いっぱいに涙を浮かべて立っている。


「バ、バカお前!!」

外は雨が降っていたのだろうか、彼女は頭から足先まで濡れていて

とりあえず、その細い手首をつかんで中に入れる。


春先とはいえ、こんな時間にこんな格好で・・・・。


よく見ると、彼女はまだ制服のまま。


・・・うそだろ。


「・・・まさかお前・・・あのまま公園にいたとか・・・言わねぇよな・・・?」

タオルを持ってきてやるべきだ とか

とりあえず暖かいお風呂を入れてあげるべきだ とか

当然の理が、俺の頭の中に整理できない。



「・・・かんない。」

彼女が手の甲で、グシグシと自身の瞼を擦る。


「蘭ちゃん?」


手で隠されたその表情を見つめる

目も鼻も真っ赤で、涙と雨でグチャグチャな顔

・・・・そんな様子が、とにかく痛々しくて、愛おしくて

思わず、その華奢な体を、腕の中にかき抱いた。




「快斗君・・・濡れるっ・・・・」

蘭ちゃんが身を固くして、俺の胸を両手で突っぱねるけど

もう

・・・・だめだ、限界。



そのまま顎に指をやり顔を上げさせると

その綺麗な唇に、自分のそれをキツク重ねた。




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