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■2011.05.02 ももっち

出逢い


それはホントに偶然だったんだ。神様のちょっとしたイタズラなのか、それともご褒美なのか。運命の悪戯ってやつなんだろうな。
未来がどうなるかなんて分かんねーけど、でも出逢っちまったんだ・・・ 始まっちまったんだよ ――――― 
もう後戻りはできないんだ。少なくとも、オレのこの想いはもう止められねーから・・・・・・



怪盗キッドは予告状通りに盗んだ宝石を手にして、いつものように警察の追手を出し抜き、ビルの屋上からハンググライダーで空に飛び去っていた。何故だか今回の獲物はあっさり盗むことができた。まるで盗んでくださいとでも言わんばかりに無防備に置かれていたその宝石をいとも簡単に盗み出せた。
「なんだか誰かに手招きされてるみてーだったな。何かの罠か・・・?」
そんなことを考えていた時、突然地面から自分に向けて銃が発射された。
「何っ!?」咄嗟に体をひねらせ避けようとしたが、弾は2発、左肩と右足をわずかにかすめた。
「くっ!」少しバランスを崩したが、幸い狙撃地点であろう場所から死角になっているビルの陰へ入ることができた。どこかのマンションのようだったが、そのうちの明かりが付いていない部屋のベランダに降り立ち、そっと鍵を開け中に入った。そこでキッドの衣装から目立たぬ格好に着替えた後、そこを出てエレベータから下へ降りた。銃声を聞きつけて大騒ぎしている雑踏の中に紛れ込み、近くの誰も通らないような狭い路地に入って取りあえずその場所に身を置いた。

「クソっ、一体誰だ・・・?例の組織か?どうりで今回の獲物は簡単だと思ったぜ。オレをおびき寄せるための罠だったわけか」
このままここに長時間いるのは危険だ。一刻も早くそこから逃げなければと思ったが、銃で撃たれた肩と足の激痛で暫くは動けそうもない。しかも先ほどから動悸までもが激しくなり、寒気とだるさが体全体を覆っている。頭が朦朧として視界が定まらない。おまけに目まで霞んできた。
「そういやオレ風邪気味だったっけなぁ・・・。まいったな。今ここで奴らに見つかったら終わりだぜ・・・」
そんなことを考えていた時、ふいに表通りからこちらに向かってパタパタと人の足音が近づいてくる気配を感じた。
(見つかっちまったのか・・・?)
快斗は近づいてくる足音の方へ目を向け、身構えた。


「あの・・・、どうかしたんですか?」
そう言って声をかけてきたその人物は、躊躇いもなく俺に近づいてきたかと思うと、腰をかがめて俺の顔を覗き込んだ。
あ・・・君は・・・・・・。なんでこんなとこに・・・・・・?
「大丈夫ですか!??怪我してるんですか?やだ、血が出てるじゃない!え・・・?新・・・一!?」
蘭は目の前で怪我をしている人物を見てドキリとした。暗くてはっきりとは分からないが、覗きこんだその顔が自分の愛しい人の面影に似ていたからだ。
(ううん・・・、違う。新一じゃない・・・。でも、どこかで会ったような気がする・・・。この人は、誰・・・・・・?)僅かな記憶が頭をかすめた。
「君は・・・」
「あ・・・、ご、ごめんなさい!えと、とにかく止血しなくちゃ。待ってて、今手当てするから。それにすごい汗・・・、え、やだそれにすごい熱!」

彼女は自分のハンカチで優しく額の汗をぬぐってくれた。そして彼女の手でオレの額を覆ってくれる。その手は冷んやりしていて心地よかった。
これって夢じゃねーのかな?今オレの目の前に彼女がいる。彼女の瞳にオレが映っている。オレのこと心配してくれている。
キッドじゃなく本当の姿のオレに・・・

「いや・・・、大丈夫だよ。大したことねーから。それよりなんでこんなとこに入って来たの?こんな人気のない通りに人がうずくまってるなんて普通誰も気付かねーだろ?とにかくここにいたら危険だ。早く表通りに戻った方がいい。俺はなんとかなる・・・から・・・・・・」
と次の言葉を言おうとした瞬間、目の前が突然真っ白になり、オレはそのまま彼女に向かって崩れ落ちた。
「えっ、ちょっとあなた、しっかりして―――!?」
彼女の声が遠くに聞こえたような気がしたが、俺はそのまま意識を失った。



『成程、お前が怪盗キッドの正体だったとはなぁ。まさか息子が親父の後を引き継いでいたとは驚きだ。だが残念だったな。
追っかけっこはもうお終いにしようじゃないか。お前も親父と同じようにあの世へ送ってやるよ』
そういってニヤリと笑ったそいつは、オレに向けてゆっくり銃の引き金を引いた―――



「うわーーーーっっ!!!」
大声で叫びながら快斗は飛び起きた。額に手を当て、息を荒く吐き出しながら思わず苦笑した。
「くっ・・・、夢か・・・。くそっ、リアルな夢だぜ、まったく」
あの後追っ手に見つかることは無かったようだ。どうやら上手く逃げることができたらしいと快斗は安堵した。
落ち着きを取り戻しふと辺りを見てみると、どうやら自分は見知らぬ部屋のソファの上に寝かされているらしかった。
ここは・・・どこだ?俺は一体・・・??
部屋は暗かったが、部屋の中をよく観察してみると、そこは見覚えのある事務所の一角だった。以前来た覚えがある。
「ん・・・、ここは確か・・・」
銃で撃たれた個所は包帯が巻かれて丁寧に手当てが施してあり、額にはタオルと氷嚢が置かれていた。誰かにここへ連れてこられて手当てをしてもらったようだ。
(俺は確か銃で撃たれて路地で動けなくて・・・。そうだ、彼女が・・・あの名探偵の彼女がオレに駆け寄ってきてくれたんだっけ)
あれは夢じゃなかったんだな。しかしその後の記憶がない。あの時の状況を考えると、おそらく彼女が自分をここに運んできたのだろう。でもなぜあんな狭い路地に隠れていたオレに気付いたんだ?それになんで自分の家に連れてきた?

その時、上からパタパタと階段を駆け降りる音がしてガシャッと扉が開いた。パッと電気がつくと、開いたドア越しに心配そうに自分を見た彼女と思わず目が合った。オレの心臓が急にドキドキし始める。
(お、落ち着け・・・、オレ。静まれっ、オレの心臓!!)

「大声が聞こえてビックリしちゃって・・・。大丈夫?気が付いたのね」
「あ、あのさ。オレは一体どうしてここに?」
「路地裏で倒れてあのまま意識を失ったのよ。私がここまで担いで運んだの。怪我していたし、とてもほおっておけなくて。
救急車を呼んで病院に連れて行こうとも思ったんだけどね。なんか・・・、その・・・、私が手当てをしてあげたくて・・・。タクシー使えばなんとか運べそうだったし。あ、別に深い意味はないんだけどっっ。ところで気分はどう?痛みとかある?」
「へ、へぇ・・・。君が助けてくれたのか。そりゃまずはお礼を言わなくちゃな。それに手当てまでしてもらっちゃって・・・。しかしよくオレがあそこにいるってわかったね?隠れてたつもりだったんだけどなぁ。それに、こんな見ず知らずの男をいきなり家に連れてきたしていいのかよ?もしオレが悪い男で今この場で君を襲ったらどうするんだよ?」
蘭はクスっと笑った。
「いくら男の人でも、そんな大怪我した人には負けないわよ」
あ、はははは、そりゃごもっとも。つうか、怪我してなくてもオレより強そうだけど。
「道を歩いてたら、なんとなく人の気配を感じたの。なんでかな、分かんないんだけど・・・。それでちょっと覗いてみたら何かがキラッと光って、思わず近づいてみたらあなたがうずくまってるんだもん。びっくりしちゃった。あなたそのまま倒れちゃうし、放っとけるわけないじゃない。それに・・・悪い人には見えなかったし。でも、その、ごめんなさい、勝手なことして」
「いや・・・、別に君が謝る必要なんてないんだけどさ。助けてもらったのオレだし。ゴメン。それより、キラッと光る物ってひょっとして・・・」
「あ、そうそう、あなたのそばに宝石が落ちてたから、あなたのかと思って持ってきちゃったんだけど・・・。そこの机の上に置いておいたけど、違った?」
オレは慌ててその宝石を掴んで背後に隠した。どうせ組織が俺を誘い出すために用意したカムフラージュだろうから、パンドラじゃねーだろうけど。
キッドが盗んだ宝石だなんてバレるとやべーしな。
「ワリィ、これオレの大事なもんなんだ。わざわざ持って来てくれてサンキューな」
「ううん。あ、ところで傷の具合どう?熱は少しは下がったかな?」
彼女はそう言って俺の顔を覗き込んで手で熱を測ろうとした。オレは反射的に思わず後ずさりした。
(おいっっ、そんな無防備に近づくなよっ!近過ぎるって!息がかかるっ!!)
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。心臓がバクバクし、緊張して体に冷や汗が流れるのを感じる。
(オレの心臓の音が聞こえちまうって!でも触れて欲しい・・・。触れたい・・・。いや、何考えてんだ、オレ・・・。頼むからそれ以上近づかないでくれ・・・ヤバい・・・。
そのまま押し倒しちまいたくなるって・・・)

蘭を目の前にして、自分の理性と欲望は懸命に戦っていた。とりあえず理性が働いてくれててよかった・・・けど、熱で朦朧としてたら何すっかわかんねーな、オレ。
「だ、大丈夫。おかげで傷口も大分いいみてぇだし、熱も下がったんじゃないかなっ。体もかなり楽だしさ」
「そう?それならよかった」
天使のような満面の笑みでそう答える彼女に思わず釘付けのオレ。ははは、名探偵の気持ちもやっぱ分かるよな・・・。こんな顔されたら目が離せねーつぅの。
「そ、そういえば、あんた一人かよ?家の人とかいねぇの?いきなりこんな怪我した怪しい男を連れて来たら驚くんじゃねーか?」
「うん、うちにはお父さんと小学生の男の子が一人いるんだけど、今は二人とも出かけてていないの。二人とももう少しで帰ってくると思うけど、事情が事情だから話せば分かってくれると思うから大丈夫よ。気にしないで」
気にするなってそりゃ無理でしょう、お嬢さん。特にあの名探偵にはこんな素顔でぜってー会いたくねぇし。つぅか一晩見知らぬ男と二人っきりで過ごしましたなんて(別に手出してねーけど)あいつが知ったら、オレ殺されるかもしんねぇな。帰ってくる前にとっとと退散しねぇと。
よかった、出かけててくれて。
「いや、とりあえず帰るよ。ほんと、色々ありがとうな。このお礼は近いうちにさせてもらうからさ。あ、そだ、君の名前まだ聞いてなかったよな」
「あ、そうだね。私、毛利蘭といいます」

よーく知ってますよ。オレは何度も君に逢ってる。いつも名探偵の傍にいる君に。もっとずっと近くで君に逢えたら・・・、触れることができたら・・・なんてそんなありえない夢をいつも見ていたんだ。でも今、怪盗キッドの姿じゃなく、黒羽快斗の姿で会ってるんだよな?夢じゃねーよな?
組織に感謝しなくちゃいけねーな。こんな偶然を作ってくれたことに。オレの夢を1つ叶えてくれたことに・・・
「オレ・・・、オレは黒羽快斗ってんだ。よろしくな」
何オレ本名名乗ってるんだ??
「それじゃ黒羽さん、とりあえず帰る前に着替えた方がいいよ。汗で服がかなり濡れてるから。せっかく熱が下がったのに、濡れた服着てたらまた熱が上がっちゃうかもしれないでしょ。お父さんのしかないけど、よかったらこれ使ってください」
そういって彼女はシャツとズボンとタオルをオレに手渡した。
「ああ、サンキュ」
何の躊躇いもなく本当の名前を告げている自分に驚いた。もちろん彼女はキッドの本当の姿を知っているわけじゃないから、
キッド=黒羽快斗なんて分かるわけじゃない。それでも思わず本名を告げてしまったのは、彼女に嘘をつきたくなかったからだ。
いや、本当の自分を知って欲しかったのかもしれない。


「さてと。着替えもさせてもらったし、オレはこれで失礼するよ。このお礼は必ずするからさ。あ、そだ。後で連絡とかしたいから、メールアドレスと
携帯の電話番号教えてくんねぇかな?」
「うん・・・、いいけど、別にお礼なんていらないよ?当たり前のことしただけだから」
そう言いながら、彼女は電話番号とメルアドをメモしてオレに手渡した。
ったく・・・、知らない男に携帯番号とか聞かれてホイホイ教えんじゃねーよ。この無防備さなんとかなんないかね?それともオレだから教えてくれたのかな?なんて都合のいいこと考えたりして。
「大丈夫?歩ける?」
「あぁ、なんとかな。悪いけど、タクシー呼んでくれねぇかな」


彼女にタクシーを呼んでもらい、後で必ず連絡するからと伝えて事務所を後にした。彼女はタクシーが見えなくなるまで見送ってくれていた。
事務所を出てすぐに、小さな名探偵が探偵事務所に向かって走って来るのが車の後ろ越しに見えた。
「いっ、ちょうど今帰りかよ。間一髪だったな。はー、あぶねぇあぶねぇ」
快斗はホっとして、さっき蘭からもらったメモをじっと見つめた。こんな風に彼女と秘密の繋がりができるとは思わなかった。
これでまた彼女と会えるきっかけができたわけだ。蘭とまた逢える。二人だけで・・・・・・。そう思うと、自然と快斗の心は弾んでいた。



「蘭ねーちゃんただいまー!」
阿笠博士や探偵団メンバーと昨日からキャンプに出掛けていたコナンが帰ってきた。
「ねぇ、蘭ねーちゃん。今タクシーで事務所から帰った人がいたみたいだけど、あの人誰!?」
「あ、うん・・・。高校のクラスの人がね、急な用事があるとかでちょっとうちに来てたんだけど、今帰ったとこなのよ」
快斗から今回のことは誰にも言わないでくれと口止めされていたし、余計な心配をかけたくなくて思わず嘘をついた。
「高校のクラスの人?ふーん」
(クラスの奴・・・?確か男だったみてーだけど、あんな奴いたっけか?にしても誰だ?一体。蘭に急な用事がある男って誰なんだよ?なーんかおもしろくねーな)
しかもその男とはどこかで会ったような記憶があるのだが、その時は思い出せなかった。



翌日、熱も下がり体調もほぼ元に戻った快斗は普段通り登校していた。授業中窓からぼーっと外を眺めながら、頭に浮かぶのは蘭のことばかりだった。別れてからもずっと彼女のことが頭から離れない。彼女に手当てしてもらった個所を手でさすりながらニヤニヤし、自分に近づいた時の彼女の顔を思い出しては心臓が高鳴った。
はぁ〜と溜息をつきながら、蘭と知り合えたのだと思うだけで幸せな気持ちになれた。今度はいつどうやって逢おうかな?とそのことばかり考えていた。

これまではただ見ているだけで幸せだった。夢の中で何度も彼女に触れて抱きしめてキスしたことはある。更にそれ以上の欲望まで夢想したことはあったが、そんなことは現実とは程遠いものだと思っていた。彼女への想いは初めて逢った時から、自分でも気付かないうちに始まっていた。名探偵といつも一緒にいた彼女を、気が付けば常に目で追っていた。それでも二人の間に割って入ることなど出来る筈がないないことも、自分の想いはいつも一方通行でそれ以上にはなり得ないこともよく分かっていたが、それでも逢う度にどんどん好きになっていく自分をどうすることもできずにいた。
それなのに、あの日出逢ってしまった。彼女の優しさに直に触れてしまったのだ。夢と現実とが重なり合い快斗の心を支配していく。
快斗の蘭への欲望は形となってどんどん強くなっていった。



「怪我はもう治ったかしら・・・」
快斗が蘭への想いを募らせていた同じ頃、蘭もまた快斗のことを考えていた。快斗の怪我は銃に撃たれたことによるものだった。
誰に撃たれたのだろうか?何か危ないことにでも巻き込まれたのだろうか?何故命を狙われていたのだろうか・・・?何もかも謎だった。
ただどうしても悪い人には見えなかった。新一に似ていたからそう思った訳じゃない。それに、何故か初めて会った気がしなかった。
やっぱりどこかで会った気がする。どこだっただろう?しかし、思い出せなかった。

危ないこと・・・か。まさか新一も危険な事件に関わり、同じような目に合っているんじゃないか?そう思うと堪らなく不安になった。
電話をかけたいと思うが、仕事の邪魔になるんじゃないかと思うと戸惑ってしまう。新一は時々電話はくれるが、逢いたいとか戻ってくるというような言葉はない。答えはいつも「まだ当分戻れそうもない」だ。彼の性格は理解しているし、頭では仕方のないことと分かってはいても、心のどこかでそれを否定している自分がいる。本当は逢いたくてたまらない。いつも傍にいて欲しい。普通の恋人同士みたいに笑い合ったり、どこかに出かけたりしたい。本当はそう口に出して叫びたいのに、そのことはいつも胸の奥に仕舞い込んでいた。

そんな時、思わずドキっとするほど新一に似た人と出会ったことは、返って蘭を苦しめた。思い出さないように抑え込んでいたものがどんどん大きくなっていった。
「今新一はどこで何をしているんだろう・・・」
そういえばもうじき新一の誕生日だ。誕生日を一緒に祝いたいから逢いたいと言えば、一時的にでも帰って来てくれるんじゃないか?
そう思った蘭は、新一にメールを打ってみることにした。 
『もうすぐ新一の誕生日だよね?ね、その日1日くらいちょっとこっちに戻ってこれないかな?逢いたいよ、新一・・・』


蘭からそんなメールをもらった新一はまた苦渋の顔を浮かべていた。本当は自分だって今すぐにでも飛んで逢いに行きたい。
逢って抱きしめて・・・そして・・・。どれだけそうしてやりたいか。それができるなら苦労はしない。
(蘭に会いたいからなんていう理由じゃぁ灰原も解毒剤くんねーだろうしなぁ・・・。新一の姿で街中に出るわけにもいかねーし。
オレだってできることならおめーに会いてーよ、蘭・・・)

『悪りぃな、蘭。今関わってる事件に忙しくてそっちにまだ戻れねーよ。わりぃな』
新一からのメールの返事は結局いつもと同じだった。
「やっぱダメか・・・。そうだよね。何期待してたんだろう、私・・・。ほんと、バカ・・・・・・」
逢いたいと言えばひょっとしたら逢いに来てくれるんじゃないか?という淡い期待は、あっという間に泡となって弾け飛んでしまった。
新一からの返事を何度も何度も読み返しては、次から次へと溢れて出てくる涙を止めることができなかった。

その時、「ブルッ」と1件の着信メールがあった。(ひょっとして新一!?)慌ててメールを開いてみると、それは知らないアドレスからだった。
『こんにちは!このまえ怪我の手当てをしてもらった黒羽です。この前はほんと、ありがとう。でさ、お礼といっちゃぁなんだけど、連れてってあげたいとこがあんだよね。もうじき連休があるけど、5月4日はお暇かな?』

蘭は突然のメールに驚いた。
「あの人からだ・・・。どうしよう・・・。これって、デートのお誘いってことだよね?」
新一が傍にいる時は特に異性から誘われることがなかったので、新一以外の男性からの初めての誘いに蘭は実際戸惑った。
しかも誘ってくれている日はくしくも新一の誕生日だ。たった今本人から断られたばかりなのに、彼に似た別の人間から誘われるなんて皮肉なものだと蘭は内心苦笑した。
「どうしよう・・・。せっかく誘ってくれてるのに、むげに断るのもやっぱ悪いよね・・・」
そう思うのも事実だったが、それよりも今は新一に逢えない寂しさを忘れさせてくれるものが欲しかった。どこかに出かけることで気を紛らわせられるんじゃないかと思った。そんな複雑な想いを絡ませながら、蘭は快斗にOKの返事を出していた。



デートの前日、蘭は自分の部屋で明日は何を着て行こうかな、と少し気持ちを弾ませながら鏡の前で洋服を選んでいた。
男の子と二人で出かけるなんて、去年新一とトロピカルランドに出かけて以来1年ぶりのことだった。
(やだ・・・、あたしったら。何そんなに浮かれてんだろう。バっかみたい)
そこへドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、コナンが恥ずかしそうな顔をしてそこに立っていた。
「蘭ねーちゃん。明日なんだけどさ、その、買い物につきあってもらいたいなーなんて思って…」
新一の姿では一緒にいられないが、せめて蘭とはその日一緒に過ごしたいと思った。
「あっ、ゴメンね、コナン君。明日はちょっと出かける用事があって・・・。だから悪いんだけど行かれないんだ。ゴメンね?」
「えっ、蘭ねーちゃん、どこか出かけるの?・・・・・・誰とっ?」
(なんだ?楽しそうに服なんて選んじゃって。どこに行くつもりなんだ?蘭のやつ・・・)
「あ、うん、ちょっとね。あ、園子よ園子。買い物の約束しててね。だからほんとにゴメンね」
「ふーん・・・。そっか、じゃしょーがないよね」
(園子と買い物ねぇ?んであんなお洒落すんのかよ?なーんか引っかかんだよなぁ。明日は俺の誕生日だから会いたいとか言ってたくせに、もう別件入ったのかよ?)
自分から断ったとはいえ、この前はあんな寂しそうだったのに今は随分と嬉しそうだ。女の心理ってのは分からんと頭を捻った。
しかし、いつもと違うそんな蘭の態度に何か引っかかりを感じていた。


5月4日当日。蘭は今日は帰りが遅くなるかもしれないから、夕飯はポアロで食べてねと小五郎とコナンに伝えると、嬉しそうな顔をして出かけて行った。どこに出かけるのか気になって仕方のなかったコナンは、蘭に気づかれないようにそっと彼女の後を追って行った。



待ち合わせの時間よりほんの少し遅れてしまったが、快斗の姿はまだなく、どうやら自分の方が先に着いたらしい。
「この辺で待ってればいいかな」
と空を見上げていた時、背後から両目を手で覆われた。
「だーれだ?」
「えっ!?く、黒羽さん?」
「ブー、はずれ。正解は快斗でした!」
快斗はそう言って両手を外すと、
「オレのこと、快斗って呼んでくれねーかな?オレも君のこと蘭ちゃんって呼ぶからさ。その方が彼氏彼女っぽくていいじゃん?」
「んもーう!」蘭はちょっぴり頬を赤らめて微笑んだ。
「やっぱそうやって笑ってる方がずっと可愛いぜ?」
そんな快斗のさりげない一言に、蘭は更に顔が赤くなる。
「実は今日来てくれなかったらどうしようかと思ってたんだー。だからすっげー嬉しい」
まるで子供のように無邪気に笑う快斗を蘭はかわいいと思った。女の子が喜びそうなセリフをさりげなく言ったり、子供のように素直に笑ったりするところは新一と違っていた。
(やだ、何比べてんだろ、私・・・。関係ないじゃない)

「きょ、今日は誘ってくれてありがと」
「いえいえどう致しまして。よしっ、じゃぁ行こうぜ。オレの愛車で」
そう言って、快斗は近くに止めてあったバイクを指差した。
「えっ、バイクで出かけるの?」
「そっ。これから行く所は電車じゃちょっと不便な場所なんだ。では、どうぞ僕の車にご乗車頂けますか、お嬢さん?」
そういってヘルメットを手渡した。スカートじゃなくてホットパンツにしておいてよかったと蘭は思った。バイクの二人乗りなんてしたことがなかったのでどうしようかと思ったが、ここまできて今更断るわけにもいかない。素直にヘルメットをかぶると、快斗の後ろに跨った。
「振り落とされないようにしっかりつかまっとけよ!」
「えっ!?」
蘭はちょっとドキドキしながら快斗の腰に手を回し、ぎゅうっと背中にしがみついた。それを確認してから、快斗はハンドルを捻ってブルンとエンジンを吹かし、勢いよく走りだした。


な・・・、なんだぁ、あいつー!??
走り去ったバイクの後ろ姿を茫然と見送ったコナンは、その場で立ち尽くした。あいつ、この前事務所から帰って行ったやつか…?
どっかで会った気がすると思ってたけど、あいつ、ひょっとしてキッド!?でもなんでキッドが蘭と…??一体何がどうなってんだ??
走り去ったバイクを追いかけることもできずに、コナンはその場から動くことができなかった。



抱きつかれた背中に柔らかな感触を感じて、思わず頬が緩む。
(やっぱバイクっていいよなぁ。自然に密着できるもんね。へへへ。それにしても女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう・・・。
それに、やっぱ・・・、デカいよな・・・。Dかな?Eかな?いや、ダメだダメだ。今は運転に集中しねぇと・・・。ヤバいヤバい)
そう自問自答して必死に頭の中の雑念を振り払った。
「ねぇ?どこに行くの?」
「蘭ちゃんが絶対喜ぶところ!まぁ楽しみにしてなって」


国道から逸れて静かな道に入ってくると、周りの風景は都会のビル群から一転して広い空間へと変わって行く。都会のざわめきから離れ、どこか遠くの田舎のような長閑な風景へと二人を誘った。
(ここ、どの辺だろう?東京のゴミゴミした感じと違って凄く静かで穏やかな所ね。都会からそんなに遠くない場所にこんな所があったなんて・・・)
普段都会で生活している蘭にとって、その長閑な風景は心を癒してくれた。大きな川を渡り横道に逸れて川沿いを走ると、土手の脇には春から初夏の装いを帯びた色とりどりの草花が地面を覆い尽くしていた。
「わぁー・・・、きれーい・・・」蘭は思わずうっとりした。
「よしっ、この辺りでいいかな」
土手をしばらく走ったところで、快斗はバイクを止めた。


「こっちだよ」
バイクから降りると、快斗はさりげなく蘭の手を掴んで走り出した。
「あっ、ちょ、ちょっと・・・!」
快斗に連れられて行った先で蘭の目に飛び込んで来たのは、ピンクや黄色に彩られた花々が地面いっぱいに広がった花の絨毯だった。
「うわぁ、すっごーい!!すごくきれい ――― 」
「女の子ってこういうとこ好きだろ?前に空からここ見つけてさー」
「空?」
「あ、いやぁ、その・・・、以前偶然バイクで通りかかった時見かけてさ。いつか誰かを連れてきて見せてやりてーなって思ってたんだ。どう?気に入った?」
「うん!とっても!すごく素敵な場所ね」
「だろ?」
思った通りとても喜んでいる蘭を見て、やっぱここに連れてきてよかったなと感じた。彼女の笑顔を見れたことが何より嬉しかった。
そして蘭をそんな笑顔にしてやることができたのが新一ではなく自分なのだと思うと、更に一層嬉しくなった。

「な、ちょっと座って話しねーか?」
そう言って蘭の手を引き、花畑の真ん中辺りに腰を下ろした。隣に座って花を眺めている蘭の横顔は、どこか寂しげで憂いを帯びていた。
風になびく髪を手でかき上げる仕草の色っぽさに、快斗は思わず目を奪われた。そんな快斗の視線を感じて蘭は振り向くと、
「何?私の顔、何かついてる?」
「いや・・・、あんまりきれいだからちょっと見惚れちゃってさ」
「えっ・・・、もう・・・。そんなこと言っても何にも出ないわよ」
蘭は思わず顔が赤くなる。
「いや、お世辞とかじゃなくほんとだって。あのさ・・・。蘭ちゃんて、その・・・、好きなやつとかいるの?」
分かっているけど、思わず聞きたくなる。
「えっ・・・。何で急にそんなこと?」
「えっ、いや、さ。蘭ちゃんくらいきれいなら、彼氏の一人や二人いるんだろうなー、なんて思ってさ。だったら、今度そいつにここに連れてきてもらったらいいんじゃねーかなーなんて・・・」
何言ってんだ、オレ・・・。自分で言って自分で落ち込んでりゃ世話ねーよな。バカだよな、ほんと。

蘭は寂しそうにふっと笑い、俯いてうっすら涙を浮かべた。
「それは・・・、当分無理かな。だって・・・、逢えないんだもん、その人と・・・。今日、ほんとはその人の誕生日なの。逢いたいって言ったけど、断られちゃったんだ。すごく忙しいみたいで・・・。彼は私に逢わなくても平気みたい。私のことなんて、どうでもいいのかもしれない・・・」
知ってるよ、今日がアイツの誕生日だってこと。知っててわざと今日誘ったんだ。君がアイツに逢えないの分かってて誘ったんだ。
寂しそうにする君を見たくなくて・・・。君を笑顔にさせたくて・・・。その笑顔を作ってやれるのはオレなんだって、そう君に伝えたくて・・・。
オレは君が好きだから・・・。誰よりも好きだから・・・。オレは・・・・・・


「オレじゃダメかな・・・?オレじゃそいつの代わりになれないかな・・・?」
「えっ?」
振り向いた彼女の腕を引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「えっ、ちょ・・・、ちょっと!?」
オレの腕から離れようとする彼女をぐっと抱き寄せ、その勢いで彼女の唇を自分のそれで覆った。
「んんっっ・・・!?」
彼女の唇を塞いだまま、彼女の両手を掴んで地面に押し倒し、一瞬僅かに開いた唇から舌を入れて吸い上げる。
「んっ・・・、ふぅぅ・・・!!」
彼女は必死に抵抗しようとしたが、上から押さえつけられて羽交い絞めにされては、男の力にかなうはずもない。
舌を絡ませながら角度を変え、オレは夢中で何度も口づけた。どのくらいの間そうしていたかわからない。オレはようやく唇を離した。
その間蘭は動けずにただ快斗にされるがままになっていた。初めてのキス。突然、しかも無理やりされているのに、そうされることが何故か嫌じゃなかった。「どうして・・・、私・・・」

快斗の唇が離れると、蘭は首を横に倒して目を瞑った。頬に涙が一筋つーっと流れ落ち、肩は小刻みに震えていた。
オレはハっとして掴んでいた手を離した。
「ゴメン・・・、オレ・・・・・・」
「どうして・・・?どうしてこんなこと・・・、するの?」
「好き・・・だから」
「えっ?」蘭は大きく目を見開いて快斗を見つめた。
「好きなんだ・・・、君が・・・。初めて逢った時から、ずっと・・・」
「えっ・・・、だって・・・、ついこの前会ったばかりじゃない?なんで・・・そんな急に・・・?」
「急なんかじゃない。君とは何度も逢ってるよ・・・。ずっと、見てるだけでよかったんだ、オレ・・・。でも、逢う度にどんどん好きになっちまって・・・。
止まんなくて・・・。そんな想いのまま、あの日君に出逢っちまったんだ・・・」
(何・・・?ずっと前からって?どういうこと・・・?)
「ずっと触れたいって・・・思ってた。こんな近くに君がいて、そんな寂しそうな顔見たら抑えが効かなくなっちまって、どうしても触れたくて、
気付いたらキスしてた。悪かった・・・。でもオレ、どうしようもなく君が好きなんだ」


「そんなこと突然言われても・・・困る・・・。それに、私・・・、私は・・・・・」
二人の時間が一瞬止まる。その時、
「ピリリリリ・・・」
蘭の携帯の着信音が鳴った。
一瞬の沈黙を破り、二人はハっとした。蘭が電話に出ようと手を伸ばした時、
「出るなよ・・・!」
そう言って快斗はもう一度蘭を強く抱きしめた。
「や・・・、やめて・・・、離して・・・、お願い・・・・・・」
「嫌だ・・・」
離したくない。このまま時が止まればいいと思った。今この手を離したら、蘭はまた手の届かない所に行ってしまいそうな気がした。
快斗は蘭の首筋にそっと口づける。そのまま歯を立てて軽く噛みつき吸い上げた。
「つっ・・・!やめて・・・、嫌・・・」
流れ落ちる涙にそっと口づけを落とし、掴んでいた腕の力をすっと抜いて蘭を解放した。


その間もずっと携帯は鳴り続いていた。まるで誰かが叫んでいるように。やがてその音は鳴り止み、二人は静寂に包まれた。
「ゴメン・・・。君を元気づけようと思ってここに連れてきたのに、オレが君を泣かせてるんじゃ本末転倒だよな。でもオレ、本気だから。
君が誰を好きでもいい。いや、ほんとはよくねーけど、でもオレ、諦めるつもりねーから」
「・・・・・・そんなこと、私、分かんないよ。あなたのこと、よく知らないし。それにいきなりこんなことするなんて・・・。嫌い、大っ嫌い!」
そう言って立ち上がり、落ちていた携帯を拾った。着信履歴を確認してみると、新一からの着信が10回以上も入っていた。
(ずっとバイクに乗ってたから気が付かなかったんだ。でもなんで、こんなに電話が・・・?何かあったんじゃ?)
蘭は慌てて新一に電話をかけた。1コールもしないうちに電話が繋がった。
「おいっ、蘭!おめー今どこにいんだよっ?」
「どこにって・・・。新一こそ何かあったの?こんなに何度も電話かけてきて」
「何かあったのじゃねーよっ!オメーが電話に出ねーから心配してたんじゃねーかっ。おい、今どこにいんだよ?」
「どこって・・・。あっ・・・」
快斗は蘭から携帯を取り上げ、自分から電話口に出た。

「よぉ、名探偵。暫くだな?」
「なっ!?オメーはキッドっっ!!なんでオメーが蘭と一緒にいるんだよ?オメーまさか蘭に何かしたのかっっ!?」
「だったらどうする?後で彼女の首の辺り見てみろよ。そこに答えが書いてあんぜ?」
「なんだとっ、テメー!お前、一体どういうつもりだ?蘭を返せっ!」
「もう直ぐ返してやるよ。でも1つだけ言っておくぜ?オレは本気だからな。本気で盗みに行く。彼女の心をな・・・」
「なんだとっ?」
快斗はふっと笑いを洩らし、携帯を切った。

「あなたは・・・まさか・・・?」
「送って行くよ。今日は色々あったけど、今日オレが君にしたこと、後悔はしてねーぜ。自分の気持ちを伝えられたしな。オレは諦めが悪いんで。
蘭ちゃんがオレの方に振り向いてくれるまでずっと追い続けるかもしれねーぜ?覚悟した方がいいぜ」
「あなたのことなんか、絶対好きにならないから!」
「狙った獲物は大きければ大きいほど、手強ければ手強いほど盗み甲斐があるんだぜ?」


しゃーねーよ。それがオレが選んだ道なんだから。後悔なんてしないさ。これは始まりなんだよ。始まったんだよ、オレ達は・・・。
もう後戻りなんてできねーんだ。前に進んで行くしかねーんだよ。これからは今までみたいに遠慮なんかしないからな。全力で君を奪いに行くから――――――
もう止まることはできない。そう思う快斗の心に、暖かな初夏の日差しが舞い込んでいた。


とりあえず何とか書き終えることができてホッとしましたー。これは自分にとって処女作になるわけだけど、
こういう切ない系が好きで、
快蘭でずっと妄想はしていたけど、一応1つのストーリーになんとかまとめることができて良かったです。
正直、書き終えることができるのかずっと不安でしたね。
でもこれでちょっぴり自信ができたかなーという感じ。
私の中の快斗はもう蘭ちゃんにベタ惚れ^^。でも自分の想いは届かなくて、
でも近づきたいっていう感じ。
今のTVアニメのエンディング曲(月夜の悪戯の魔法)はもう、快蘭の歌っしょー??って
くらい私の中でマッチしちゃってます(ほんとは新蘭なんだろうけど)
このお話しは「出逢い」なので。きっと次に繋がって行くんですよ。
快斗はもっと蘭ちゃんに接近し、新一はジェラる・・・と。
そんな萌え〜な話をまた書けたらいいな、と思ってます。
最後までお読み頂きありがとうございました!