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■2010.05.08 向井美月

スターリーへブン キッド×蘭



もうすぐ・・・冬が長い周りを終える。

途轍もなく永いと感じる歳月。

その時間を経て、二人は再び出逢う。

たった一夜だけ、二人に許された儚い幸福。

それでも、あたしはその一夜だけを待ち続ける。

こうして窓際に立ち・・ただひたすら

あなたの影を瞳の奥で探し続けた・・・・

幾つもの星の瞬き、幾つもの人々の出逢い。

そして・・・・私達は再び、春の宵に巡り会う。

たった一夜の、儚い幸福の中で―――。




鬱蒼と闇を包む部屋の中、カーテンを伝い漏れる
月明かりが差し込む鏡の前にあたしは立った。
真紅のドレスを身に纏い、プルンとした唇に
そっと指を滑らせ、うっすら淡い色の紅をひいては
珍しく長い黒髪をキュッと、一つに結い上げた瞬間

「お嬢さん・・・・っ」

そんな声がして、息を呑んで振り返っても
あなたの姿など何処にも見当たらない
もどかしい、想い。
目の前にうっすらと、見えた筈のあなたの姿は幻だった。
もうすぐ会えると分っていても
この時間でさえ、物凄く長く感じる。

貴方は今・・・其処にいるのだろうか?

あたしに出会う瞬間を、待ちわびているのだろうか?

貴方も同じ様に運命の悪戯に
心を揺さぶられているのだろうか。

どちらにせよ、二人の想いは変わらぬ想いであると願いたくて

たった一度の、たった一夜限りの再会を
互いにどれ程待ち望んでいるだろうかなんて
言い表せるなんて出来やしない。
この想いは、あたしも貴方も変わらないと信じているから
あぁ、もうすぐあなたは……其処に辿り着く。
空を仰ぎ見ると、眩しい程の目映い星屑達が輝き

そして、この身を美しく輝かせる上弦の月。

全てがこの再会を、祝福してくれてる様。
ボンヤリと見つめていた景色が
はっきりとこの目に映し出す。

見覚えのある、白いシルクハットにモノクルを身に付け
白いカイトを揺らし浮遊している少年・・・・

――キッッ・・・・ド!!――

逢いたい。逢いたかったの
早くその顔をよく見せて、その肌に触れさせて欲しい。

ただひたすらにあたしはその胸に
飛び込む為にあなたの名を呼んだ。

「キッドーーーーッッ!!!」

ゆっくりと、時間が流れていて
一秒一秒が、永い瞬間だった。

ートスッッッー

「こんばんわ・・お久しぶりです、お嬢さん・・・・・」

ふわりと舞う、白いマント

飛び込んだ胸に感じた厚い胸板。
それと、首に廻した腕にまとわりつくあなたの匂い
抱く力に比例して、それ以上の返事が返ってくる。
腕に篭められた力に、愛しさを感じる。

ずっと、触れたかった・・・。
感じたかった、この温もり。
夢にまで見たこの感触、吐息、甘い声。

「とても素敵ですよ・・その真紅のドレス
けれど、結っている髪の毛は解いて良いですか・・・?」

「・・・えっっ??」

「結っていたら、私が・・・・
その綺麗なお嬢さんの、黒髪に触れられませんから」

耳元に囁かれた優しい言葉に、想いが零れる。
頬を伝わった想いは、そのまま白い衣へと届く。

逢えなかった月日の想いが涙に変わる。

「あれ・・・っ、俺・・悪い事言っちまってる?ひょっとして?」

少しだけ、本性を曝け出した怪盗は
そんな言葉を投げかけると、あたしの髪にそっと触れ
結っていた髪を、器用に解き始めていた。

「やっと逢えました・・・私の一番欲しいお宝に・・
ずっと・・・・・・逢いたかったんですから」

二度目は、深く熱い声。

この声、姿、温もりを・・・・
欲さない日など一日もなかった。

幾夜・・独りお嬢さんを想ったことか。

この愛しさを、心に秘めたことか・・・。

全ては、この一夜限りの再会の為――。

抱きしめられる腕から、あたしの身体に零れ落ちた
貴方の想い。

「・・・やっと逢えた・・・・っ」

幾度も貴方が、声を震わせ呟くから・・・・・
今よりももっと強く、あたしは貴方を包み込む。

「キッ・・・・ド」

儚い想いは、闇へと消えてしまうのに。
どれだけ愛しても、二人の運命を変えられぬのに。
それでも、また再び互いを感じる為・・・・。
二人は、誓いを守る。
ただ抱き締めあって、温もりを通わせるだけの一夜でさえも・・・。

「このままもう・・
私の物になってしまいますか?愛しいお嬢さん・・・」

溢れる想いは、言葉にしきれない程に

どれだけ抱き締めても・・・・・

どれだけ囁かれても・・・・・

傍にいることが叶わない。

「そんな事言うのなら・・・・
いっその事、ずっとあたしの側に・・・」

この心に秘めたその言葉を、どう表現したら良いのか分らず
成す術もなくひたすらに、あなたの温もりにしがみついた。
抱き締め合う二人の部屋の窓に目を向ければ
輝く星屑が流れゆく。
天に浮かぶ上弦の月は、その行く末を見守るように
優しく、微笑みかける。

一体あとどのくらいの時間
共に、過ごせるのであろう・・・・。
残った刻は、計り知れない僅かな時間の筈だから
抱き締め、抱き締め合い
想いを吐き出す様に温もりを求め合って・・・
お互い静かに、瞳を閉じた・・・。

―――夜は・・・・
何故こんなにも早く過ぎ去ってしまうのだろう。
遠くにぼんやりと見ゆるは、朝を迎える陽の光り。

「キッド・・・・・」

抱き締め合ったままの二人は、微かに時の悪戯を感じとる。
不安げな、あたしの声。
この光りが顔を見せれば、別れの時がやってくる。
何をするわけでもなく過ごした夜は、永い様で短かった。
容赦なく・・・・夜が明けていく。

「お嬢さん・・・・」

名を呼び続けることなどに、意味などないのは分っている。
離しがたいこの温もりを、一分でも一秒でもいい。
少しでも長く、感じ取っていたかった。
想いは、同じであるから。
少女もまた、それを嫌い、拒み続けているのに
別れの時は、そこまで迫っていた。

「―――っん・・・・」

突然唇に感じたのは、柔らかい貴方の感触。
微かにかかった吐息。
とうとう、別れの時が・・・・きた。
別れ際に貴方がするのは・・・・・・
軽すぎるほどの口付け、それは抑えの利かない二人の
最後の抵抗。
このままでいれば、別れられないことも解っていたから。
身を引き裂かれる想いを、心の闇に閉ざして。
貴方からの甘い口付けを、この唇に受ける。

「お嬢さん・・・・・」

言葉は、要らない。
ただ視線を絡ませて、貴方の最後の想いを聴けたのなら

「キッド・・・・・ッ」

そうして、貴方に想いが届いたのなら。
後ろ髪を惹かれる想いで、この腕を解いだ。
別れの言葉も、あたし達には要らなかった。
幸せなひとときは儚く、あたしの心を掻き立てる。
幸せなひとときは、儚く。
そして、脆くて・・・・・。

側に居た貴方は、この部屋から出て行って
その姿は見えなくなった。
けれど・・・あたしはきっと忘れない。
想い出抱きしめながら、あなたをずっと待ちつづける。
巡り巡ってまたこうして
・・・甘い夜を過ごせる日まで


(fin.....)