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■2009.03.23 姫月水花



見惚れたよ


真っ白な君に







Deeper









寒い夜だ。



雪に覆われる冬の日
僕の見ているこの景色を君に見せてあげたい
見つめる君を
世界中の人たちに見せてあげたい・・・♪



街の片隅からそんな歌が聴こえてきた。


(誰の声だっけ・・これ・・・)


凍りそうな道を足早で歩きながら、オレは声の主が誰なのかを考える。
ああ、そうだ。
最近よくテレビに出てる男性歌手の・・・あいつ、あいつ・・・
と、顔は思い出すが名前が出てこない。

そういえば、今日は一日中、鉛色の空だった。
歌詞に促されて頭上を見上げれば、その雲はまだ天を覆っている。
こういうのを「雪空」って言うのだろうか。


(めんどくせ・・・)


都会は呆れるほど雪に弱い。
1センチ2センチで大騒ぎして道路は大混乱。
電車も次々に止まる。
雪なんて面倒以外の何物でもない。


(・・さみぃ・・・)


コートの襟をたてて肩をすくめる。
両手はポケットに突っ込んだまま北風に逆らって、
信号が青に変わる時を待つ。
向かいの歩道には自分と同じ年代だと思われる男女が二人。
こちらと同じく冷たい風に晒されて、だけどオレとは違う点がひとつ。
彼らは二人だった。

彼女は手袋の片方を外し、彼に差し出した。
彼は苦笑しながらそれを受け取り自分の左手に嵌めた。
オレには小さいよ、とかなんとか言ってるのだろうか。
今度は彼が空いた方の手を彼女に差し出した。
彼女は頬をピンク色に染めてその手を握り返した。

おーおー・・・見せつけてくれるねぇ・・・。
こんな真冬に君たちだけは春満開ですか。

とか思って。
だけど、真っ白なその手袋はとても温かそうで。
にっこり微笑む合う二人がとても幸せそうだったから、
オレは柄にもなく羨ましいと思ってしまった。


「・・・・」


たかだが数分の出来事。
しかし時間は関係ない。
いつ何時も予告なしに湧いてくる気持ち。
それが想いだ。

場所はどこでも、時は0.1秒でも。
それはとても尊いものだと知ったから、
オレは「羨ましい」と感じる気持ちを恥じることはしない。
手を繋ぐ二人と擦れ違った今だって、ほら。
知らない間に顔が綻ぶんだ。

おかしい?
変な奴?

どうでもいい。
どう思われたっていい。
揶揄する奴らに言ってやりたい。
幸せな光景を幸せだと思えることが幸福なんだ。
羨ましくて嬉しくなって。
だから早く、オレも早く逢いたいって・・・。
そう思うのが人ってもんだ。

そういうの、うざったくて面倒くさくてずっと敬遠してたけど、
これは弱さじゃなく温かいもんだってわかったんだよ。
教えてくれたんだ、彼女が。

見てみろよ、今のオレを。
交通機関が乱れるのなんだの文句を言ってたくせに、
今じゃあ、明日の朝は雪だるま作れるくらい積もってるといい
なんて思ってる。
いっぱい降れば楽しくなる、なんて思ってる。
だって、彼女はきっと言うからさ。




 ――綺麗だね




水が固まっただけのそれを。
嬉しそうに見つめながら、手を伸ばしながら言うと思うからさ。
その笑顔を見たいから雪よ降れ降れ〜って、
ガキみたいに思っちまうよ。


(はっ・・・バカみてぇ・・・)


てかバカだろ、オレ。
あはは。
自分で自分を笑っちゃうけど。
けど・・・


(・・蘭・・・・)


意味もなく走ってるのは君に逢いたいから。
ほぅ・・・と落ちてくる冷たい粒を顔に受けながら
想い浮かべてしまうから。




 ――快斗くん!




君はきっと言ってくれるから。
オレを見て、満面の笑みできっと・・・




 ――雪が降ってきたよ!






























「た・・だいま・・・っ」


息を切らせて玄関を開け、家の中を探す。
鍵はかかっていなかった。
靴もある。
ということはここに居るということ。


「・・蘭ちゃん・・・?」


脱いだコートを手に持ったまま名前を呼んだ。
しかし返事はない。

キッチンにも居ない。
寝室にも居ない。
居間にも居ない。
いったいどこに・・・・


「!」


考えるオレの頬に先ほど感じた冷たさ。。
辿って行きつく先に狭いベランダ。
細く開いた窓から入り込む北風。
そこに、君。


ほわほわ


天から舞い降りた綿菓子のような結晶。
手のひらに触れた途端それは消えてしまうけど。
飽きもせず空を眺めてて、君は笑ってた。
見惚れるオレは声も発せず立ちすくむ。


「・・・・」


己が持つ想像力の乏しさを実感する。
イマジネーションを超えた光景。
君は消えそうなほど綺麗だった。


「・・・・」


呼びたくて、呼べない。


「・・ら・・・」


声が出ない。


「・・・・」


あまりに美しくて。
あまりに儚くて。
あまりに愛しくて。


「・・・・蘭」


気持ちを制御できない。
だからオレは怖い。
それでも君は気づいてくれるから怖いんだ。


「快斗くん、おかえりなさい!」
「・・・うん」
「いつ帰ってきたの? ぜんぜん気付かなかった」
「今さっきだよ」


君は言った。


「見て見て、雪が降ってきたよ」
「ああ・・・そうだね」


オレが思った通りのことを、想い描いていた声で言った。


「綺麗だね・・・」


ほんのり頬を染めて言うんだ。
それはそれは可愛い声でね。
子どもみたいに無垢な笑顔を見せるんだ、オレに。


「ははっ・・」
「快斗くん?」



だからオレ、笑っちゃって。


「かーわいいなぁ・・・蘭ちゃんって」
「なっ・・」


思った通りのことを言うのに君が真っ赤になって
恥じるから、それがほんと、可笑しくて。


「積もるといいな、雪」


くすくす笑いながらベランダに出て君の隣に立つ。
手すりに頬杖をつきながら君を見つめて言う。


「雪だるま作っちゃう?」
「っ・・・」
「楽しみだなぁ〜明日の朝が」
「そんなこと言って・・・」
「え?」
「どうせ子どもっぽいと思ってるんでしょー」
「んなことねーよ」
「うそつき」
「嘘じゃないって」
「信じない」
「蘭ちゃーん」
「だって笑ってるし・・・」


お姫様はこのニヤけた顔がお気に召さないらしい。
ごめんごめん、と言うけどオレの想いは伝わらない。


「だからぁ・・笑うのはさ・・・」


伝わらないんだ、いつも。


「・・・可愛いからだよ」


言葉って、こんなに意味がないもんだったっけ?


「君が可愛いすぎるから笑っちまうんだ」
「快斗くん・・・」


偽らざる気持ち。
どうやって伝えたらいいんだろう。
どうすれば伝わるんだろう。


「だからすっげー嫉妬した」
「え・・?」
「こいつに嫉妬した」


上空で凍ったまま降りてきた雪。
触れれば消えるこれに妬いた。


「君の視線がこれに向けられてることが嫌だった。
 雪なんかじゃなくてオレを見てって思った」


綺麗ね、なんて言われて
積もるといいね、と思われて
・・・いいな、おまえ
こんなにも彼女に想われてて
喜ばれててさ


「・・・雪・・だよ?」
「うん」
「ただの雪だよ」
「うん」


知ってる
わかってる
それでも


「人はもちろん、君の友達や子ども・・・テレビに映る映像・・・
 流れる音楽・・・そこに生えてる木だって・・・
 君が捉える全てのものがライバルに思える・・・。
 雪だろうが雨だろうが関係ねぇ。相手がなんだってオレは嫉妬するよ。
 君が見ている物すべてに嫉妬する。そういう奴なんだよ、オレって」


びっくりした?
軽蔑した?

うん
そうだろね
オレだって思うよ
サイテーだ・・ってね
自分で思うさ

思って嫌になる

積もれ積もれ
天に届くまで積もればいい
それでも、おまえはオレに勝てない

勝てるやつなんかいない
勝てるものなんかない

掘って掘って掘り進んで
地球の裏側まで掘ったって辿りつかない
それくらい深いんだ
自分でも見えないくらい真っ暗なんだ
オレの、この気持ちは


「逃げるなら今だよ、蘭ちゃん」
「・・快斗くん・・?」
「ワン、ツー、スリーでオレは君を抱き締める。
 そしてたぶん、今夜は離さない」


タイムリミット3秒は短いか?
あはは、ごめん
でも赦してくれ
今のオレにはこの数秒が精一杯


「夜が終わっても離さない」


朝まで、なんてセコイことは言わない
それは死ぬまで続くんだ


「・・・離したくないから早く逃げて」
「・・・・」
「雪が積もる前に逃げてくれ」
「・・・・」
「蘭・・?」


至高の微笑みを浮かべている間に
真っ白な愛が真っ赤な狂気に変わる前に


「・・・蘭」


早く早く
此処から去って
終わりにして
笑顔で
その言葉を言って
言ってオレを
オレを・・・・























「・・・寒いね」


そのとき
一瞬にして心に宿った温もりを
オレは生涯、忘れる事はないだろう


「快斗くん、とっても冷たいよ」
「・・・そりゃ・・こんなところに居たら・・・」


と言いかけてオレは気がついた。
こんなところに居るけど君は温かい。


「・・なんで・・?」
「わからない?」
「・・・・」
「ねぇ・・・快斗くん」
「・・・・」


自惚れていいなら答えはひとつ


「・・オレと一緒に居るから」


君が笑うのも
逃げないのも
重なる手が生きていることも


「オレが君と一緒に居るから」
「ぴんぽーん。大正解!」


今オレの居る場所が過ちだとしても
間違いだったとしても
染み込む温かさは本物なんだ


「ね、ぎゅーってしてくれる?」
「・・・・」


広げる君が闇の奥に堕ちていきそうだ。
そう思ったら怖くて怖くて、力いっぱい抱き締めていた。


「どうしたの・・」
「・・・・」
「いやなことあった?」
「・・・・」
「雪はきらいだった? ごめんね」
「っ・・・」


ちがう
ちがう


「・・オレ・・・・」


なんかもう
めちゃくちゃ好きで
好きで

暗い夜空に君が笑うから
真っ白な笑顔でオレを呼ぶから
失われるべきは自分なんだと知っていて
それでも望んでしまうから怖くて


「ただ・・・好きなだけだ」


終わりが見えない感情の行く末が怖くて
君をオレで殺してしまいそうで


「好きなんだ・・蘭のこと・・・」


それだけなのに
ただそれだけなのに痛くなる
横たわる深淵に気が遠くなる
狂ってゆく想いに絶望する
だけど・・・


「わたしも大好きだよ? 快斗くんのこと」
「・・・うん」


君の声は唯一の答え


「快斗くんも温かい。だからだいじょうぶ」
「・・・うん・・」


嬉しくて涙が出る
幸せってやつ、感じる
生まれたことに感謝する
君が居るから、なんだよ














「・・・蘭ちゃん」
「んー?」
「オレ幸せ」
「そう?」
「うん」
「よかった」


わたしも幸せだから嬉しいという君に、
オレは何を返していけるだろう。
わからないけど、この気持ちは大切にしようと思う。


「積もるといいなぁ・・」
「雪だるま作りたいから?」
「うん」
「快斗くん、本当は雪が好きでしょ」
「そうかもな」


笑い合っておでこくっつけてキスをして。
君をオレに閉じ込めて。

寒い夜だ。
寒くて冷たい夜だ。
だけどこんなにも温かい。

そう感じる心が嬉しかった。
大好きな君がここに居てくれて嬉しかった。
本当に本当に、嬉しかった。

愛しかった。





(企画投稿時の作者様あとがき)

 Love Sick2 をご堪能のみなさん、こんにちは。姫月水花と申します。
 悩みに悩んだ末、皆さんが盛り上がっていた「雪」を使って
 お話を書いてみましたー。
 というか勝手に皆さんの妄想をお借りしました(笑)

 快蘭は私にとってとても難しいカップリングです。
 それは、快斗を悩ませすぎるからだと思っています。
 本当はもっと明るく、らぶらぶ〜な快蘭を書きたいんですが、
 どうしても切な目になってしまいます・・・。
 特に冬はいいですね! 切ない度がUPして脳内に風景が広がりますv
 このお話は「とある夜の数時間」を書いたもので、
 流れは本当に短いひと時なのですが、想いはいっぱいです。

 私は、男の子にも抱き締めてもらう権利があると思ってます。
 護ってもらうことも必要だ。同じ人間なんだから甘えていい。
 思いっきり抱き締めてもらえばいい。
 弱音を吐ける場所って自分にとって最も護りたい場所だと思うのです。

 快斗は雪にさえ嫉妬した自分が酷くちっぽけに見えて情けなくなった。
 でも、彼女に抱く気持ちは捨てたくないから本音を言ってみた。
 彼に振り向いて微笑んだ蘭は、この景色を彼と一緒に見れる
 現実が嬉しかった。嬉しいから笑った。
 
 想像していたのは彼を見て微笑んだ彼女です。
 その笑顔が皆さんの心にも浮かんでいるといいなぁ・・・。
 快斗の目に映る蘭ちゃんは私たちには一生見ることは
 できませんが(笑)その笑顔を感じてくだされば幸いです。

 最後になりましたが、前回に引き続き素敵な企画を立ち上げて
 くださったsherrieさん、ありがとうございました!
 たくさんの快蘭作品に触れることが出来て幸せです。
 ありがとうありがとう。快蘭大好きだー。

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2008年冬に開催されていた
快蘭冬企画「LOVE SICK2」さんより、作品を移行させていただきましたv