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■2008.08.23 サクラ
いつのまに。
俺のすべてを占領して。
Pinky Ring
照りつける太陽と、暑さに歪むアスファルト。
遠くの景色はユラユラと揺らめき、何もしなくてもコメカミから汗が伝う・・・。
なんだってこんな時に、遊園地なんて。
クラスメイトの奴らから電話があったので、とりあえず暇だしと出て来たものの・・・。
あっちい・・・・。
だいたいヤロー5人で狂った様に暑い遊園地で遊ぶなんて、酔狂もいいとこだ。
突然
一陣の涼やかな突風が、夏の嵐のように俺の横を通り過ぎる。
思わず一瞬眼を閉じて、悲鳴が上がるその入場口に目が行くと・・・・・・。
「うそだろ・・・・・・・。」
最近。
眠る前にいつも俺の思考に登場してくる人物が。
たった一人で、そこに佇んでいる。
キャアキャアと叫ぶ女子大生の集団の向こう。
いまだ止まぬ突風に、その人物のかぶっていた帽子が飛ばされた。
コロコロと、小さな帽子が俺の足元まで転がってきて、それを拾い上げる。
ドキドキドキ・・・・・
げ。なんだ、俺。
緊張してんのか・・・・・?
その子が、俺に気づいて
・・・どういう顔をするのかは、想像がつく。
ほらね、ちょっと目を見開いて、ぱあって嬉しそうな顔になって・・・・・
それから・・・。
そんな表情の変化を見たくなくて、俯いた。
なんで?
彼女が落胆する様を見たくないのか?
自分の顔を見て、違う、と思われることが辛いのか・・・?
「わり!俺、約束あったんだ!!」
なにぃ?と、怒る友人達に心の中で詫びを入れつつ、心の中で鳴っている警鐘を無視して。
帽子をもって、彼女の元に走りよった。
「あ、ありがとう・・・。」
「すげー風だったよね?」
帽子を手渡そうとして、互いの目が合う。
ドキン
心臓が、また、跳ねた。
帽子を手渡して、そのまま・・・・さよなら。
それが一番いい方法だ。
けれど、目が離せない。
帽子をいつまでも離せない俺を、君は一体どう思うのだろうか。
理解できないのは俺も同じ。
名探偵の恋人に、一体何の感情を抱いているというのだろう。
仕事中、予期せず遭遇した飛行機のトラブル。
意志の強そうな瞳と、困難に立ち向かう力のある子だと判断したから
乗客の命を一手に握る随分と大変な役割をさせてしまった。
抱いた肩は震えていて、操縦桿を握るその両腕の細さに、ちょっと申し訳ない気にもなったけど。
必死に操縦法を覚え、数あるスイッチの場所と名称を的確に暗記していく様子に舌を巻いた。
小さな探偵君が側にいたから、俺は必要ないと思っていたけど
一応コックピットに盗聴器をしかけ、一足先に飛行機を飛び出した。
埠頭に光の滑走路を作り出し一息つくと、空に飛ぶ制御不能の銀翼の鳥を見上げる。
「・・・・・後は頼んだぜ?・・・・名探偵・・・・?」
パニックになることも無く操縦桿を握る彼女は、実は相当無理をしていたようで。
小さな名探偵はそれに気づき、彼女を勇気付けた。
あいつにしか、出来ないこと。
震える彼女を包んであげること。
見事なランディングで、巨大な鳥を籠に入れた、君。
ご苦労様の意味を込めて、再び会いに行ってしまった。
どうして変装をといたのか。
今になってもわからない。
ただ、普通の高校生として、KIDではなく黒羽快斗として。
君に姿を見せたかったのかもしれない。
「あ・・・・あの?」
しばらく思考に囚われた俺を、不思議そうに見つめてきた。
「あ!ご、ごめん。」
二人してつかみ合っていた帽子をパッと離す。
「どうもありがとうございました。」
ぺこりとお辞儀をして、そのまま行ってしまいそうになる君を・・・。
「ねぇ?一人で来てるの?」
ナンパヤローと変わらない口調で引き止めた俺。
遊園地に入り、ベンチに腰掛ける。
まさかついて来てくれるなんて、思ってもみなかったから・・・心臓はドキドキと早鐘を打っている。
「初めまして・・・って、おっせーな自己紹介。」
「・・・・・・そだね。初めまして、毛利蘭です。」
知ってる。
離れてくんねーもん、蘭 という響き。
「俺は黒羽快斗。黒羽クンはやめてね?」
名前で呼んで?
俺も・・・呼びたいから、蘭・・・・ちゃんて。
「今日はデートだったんじゃないの?」
意地悪な質問だな・・・。
違うと知っているのに。
「ううん。そんなんじゃないの。・・・なんだろうね、気づいたら、ココに来てたの。」
そうか。
ここは・・・・あの探偵君と、最後に会った場所。
ふと見ると、まさか中に入るつもりは無かったのだろう。
白く華奢なその手が、膝が、少し震えていて。
ーーーーー なにやってんだよ?
いまだ元に戻るスベが見つからない名探偵に腹が立った。
彼がどんなに必死に彼女を守っているかは知ってる。
どんなに愛しているかも知ってる。
だけど・・・。
いま実際に、彼女はこんなに傷ついてるじゃんかよ?
「あそぼ?蘭ちゃん!!」
俺は気づいたら蘭ちゃんの手を取って、遊園地の中心まで駆け出していた。
「・・・・これ、快斗君が食べるの・・・?」
もう昼過ぎだったから、遅めの昼食をとりに入ったレストラン。
あっちーし食欲ねーから頼んだチョコパフェに、目を丸くした蘭ちゃん。
「そ。俺の主食だもん。」
「え!ほんとに!?」
「・・・・・んな訳無いでショ。」
「もう!」
「あ、笑った。」
「え?」
「初めまして言ってから、一度も笑ってなかったぜ?」
「そ・・・・そうだっけ・・・・。」
ぽかんと開いた蘭ちゃんの口に、パフェに乗ったサクランボをひょいと入れた。
「!!」
驚いて口を押さえる彼女に笑いかけて
「ほら、蘭ちゃんも食えよ?飲み物だけなんて、店長さん怒っちゃうぜ?」
蘭も食欲が無かったのか、注文はアイスティーだけ。
快斗はメニューを広げて、蘭の前に差し出した。
「うーん・・・。これでしょ、蘭ちゃんの好み?」
指差したパスタに、蘭が驚く。
「すごい!なんでわかるの?」
「そりゃ?蘭ちゃんのことなら何でもわかるさ。」
「えー?」
「男の好みのタイプはね・・・ずばり、俺じゃね?」
「・・・・・・・ぷっ!!」
蘭ちゃんは飲みかけていたアイスティーを吹きこぼしかけ、そして、また笑った。
「・・・・んだよ。んなに笑うトコじゃねーだろ?」
「だって・・・。ついてるよ?」
生クリームを鼻の頭につけて気づいていない快斗が相当滑稽だったのか。
急にお腹が空いてきたと、快斗が指したものを店員に注文する間中も、蘭の笑いはおさまらなかった。
いっぱい笑って、いっぱい話して、たまにこっそり手を繋いでは、怒られて。
誰がどう見ても。俺たちは仲のいい恋人同士だっただろう。
「へったくそだなー!!」
「あ!絶対取るんだから!!」
あまりにも暑いので、乗り物には夕方すぎたら乗ろうと約束して、園内にある室内のゲーセンへ。
これで夜まで一緒にいられると思うと、快斗は自然に心が弾んでいるのを感じた。
「蘭ちゃん・・・。何回目だよ・・・。」
「う・・・。だって絶対欲しいんだもん・・・。」
射的やら輪投げやら。
縁日と謳われたこの空間はさながら小さなお祭りのようだった。
蘭が狙うのは、輪投げの景品の小さな貯金箱。
「・・・・あんなん欲しいのか・・・・?」
「可愛いじゃない?」
「ガキ・・・。」
「なによ?」
プウと頬を膨らませてくる蘭がかわいい。
って・・・・なに考えてんだ。これは、彼女を慰めるためにしてるんであって・・・・・・・・。
「おら、貸してみ?」
自分の感情に気づくのが怖い。
俺は蘭ちゃんから輪を取り上げると、ひょいと目的に向かってそれを投げた。
「いやーやっぱ俺って天才だね!」
「えー、だってコレ・・・欲しかったやつじゃないよ?」
蘭ちゃんが持っていたのは、おもちゃの指輪。
ゲーセンから外に出てみると、もう大分日が翳って、遊園地のすべてがオレンジ色に染まり
昼間とはまた違った表情を見せていた。
「似合いそうじゃん?」
ひょいと蘭ちゃんからそれを取り上げると、フリーサイズのそれを蘭ちゃんの指にはめようとして。
目が合う。
片手で蘭ちゃんの白い手を取り、もう一方で指輪を持ちそれを細い指にはめようとしている。
一瞬指を迷ったのを悟られませんようにと、細すぎる小指にそれを収めようとすると。
パシュっと音がして。
地面から水が噴出した。
わ、なんだ?
そう思って周りを見渡すと、次から次へと上る水柱・・・。
噴水、か?
そう思っていると、自分達の周りをキラキラした水の柱が囲み、一瞬俺らの姿は外界から遮断される。
「すげー・・・・・。 ・・・蘭ちゃん?」
蘭ちゃんは、この光景を見たのは初めてではないらしい。
目を細めて、そして、ポツリポツリと、なにかを語り始める。
「・・・・・。」
え?聞こえない。水の音が大きいのに、うつむいて話すものだから。
「・・・・・なんでしょ?」
「え?」
「快斗君も・・・・私に何も言ってくれないんだね・・・・・。」
「ら・・・蘭ちゃん・・・・?」
何も?
何もって・・・なにを?
「新一も・・・。」
蘭ちゃんの大きな瞳が、ドンドンと潤みだす。
「ど・・・してなの・・・・・?」
ーーーーーー 知ってるんだ。
俺の正体も、・・・・・・小さな名探偵の、本当の姿も。
二人の世界を作っていた円形の噴水が、段々と下に下りていく。
「そ・・・か・・・・・・・・俺のこと、いつから気づいてた?」
「帽子、拾ってくれた時から。」
そんな時からわかっていたのに。
何故、ついてきたんだ?
夕日が沈む。
辺りがオレンジから段々と漆黒に変化していく。
次の言葉が見つからなくて、俺も蘭ちゃんも、そこから離れられなかった。
何分そうしていたかわからない。
「ウソ・・・つかれて、辛いよな・・・?」
やっと出てきた一言は、つまらない確認。
当たり前なのに。
きっと、蘭ちゃんは何度だってウソをつかれてる。
「うん・・・。」
街頭が、チカチカっと点滅し、暗闇に沈みかける蘭ちゃんを照らした。
泣いてるかと思ったけど・・・。
意外と言うべきか、彼女は顔を上げて凛とした表情をしていた。
「ごめん・・・・・。俺も、傷つけちまったよな・・・・・。」
ウソをついたこと?
工藤に変装して、君を惑わせたこと?
「・・・・・・・。嘘、つかれるのも辛いけど・・・・・・・・。」
蘭ちゃんが、とてもとても、綺麗に微笑んで。
「ついてるほうは・・・・もっと、・・・・辛いでしょ?」
どうやって帰ってきたのか、覚えていない。
彼女を自宅まで送り、無事自分も家に帰ってきたのだが・・・・・・。
嘘をつくのが辛い。
きっと、名探偵もいつも感じている。
正体を隠して生活する事。
いつだって誰かを騙しているような、罪悪感。
誰にも気づかれない・・・・なにかしらの、孤独感。
白日の下に晒された自分の中にある感情に驚く。
あのコトバは、きっと名探偵に言った言葉なんだろう。
だけどそれは、俺の心の中までも照らして。
渡せなかったオモチャの指輪をポケットから取り出した。
俺だったら・・・。
泣かせたりはしないのに。
あの子は人のものだ。
そんな事も考えられなくなるほどに。
蘭は俺の心の中を占領した。
また会おうぜ?
その時は、きっと。
俺は掌にある赤いガラス玉の指輪を見つめて、次に合うのは偶然じゃないだろうと確信した。
Fin
(管理人より)
【Pinky Ring】蘭ちゃんの気持ちがわかりすぎるほどわかる快斗だから切ない…
2007夏〜2008夏まで開催されてた企画
快蘭企画「LOVE SICK」さんよりいただきましたv
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