+++ずっと、ずっと・・・。+++
「快斗ーー?」
室内に蘭の声が響く。
しかし、ソファで雑誌を頭に被り眠り耽っている快斗にその声は届かない。
すやすやと寝息をたてている快斗を見つけ蘭は溜息をついた。
「こら、起きなさいよー。」
小さく耳元で囁くが返事はなく、かわりに快斗は寝返りをうつ。
その様子が何だか微笑ましく、幸せだなっと思い蘭は自然と頬が緩んだ。
こんな幸せな生活の出発地点は思い出せば去年の今日だったのかもしれない。
「おい、蘭。起きろよ。」
耳元で声がする。
優しく甘い、大好きな声。
快斗を起こそうとしていたはずなのに、どうやら逆に私が寝入ってしまったようだ。
まだ夢現だが必死に重い瞼を開けると、――――そこには誰もいなかった。
あれ?快斗は??
今、耳元に声が聞こえたはずなのに、そこに快斗の姿はない。
しかも室内は静けさが漂っていて、人がいた気配は微塵の欠片もない。
一気に眠気は吹き飛び、頭をフル回転させた。
ここはどこで、私は今、何をしているんだっけ?
そう、快斗は??
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・快斗?」
室内に冷たく声が響きわたる。
心拍数が高鳴り、不安が募る。
「・・・快斗!快斗っ!!」
大切な人の名前を呼びながら家中駆け回る。
寝室、リビング、キッチン、お風呂場・・・・・どこにも快斗の姿はない。
背中に悪寒がはしった。
なんで?なんで!なんで!?
蘭には今の状況がまったく理解できなかった。
快斗の悪ふざけ?どういう・・・こと?
「ただいまー。」
快斗の声!!
蘭は玄関に走った。
玄関に座りながら靴を脱ぐ、快斗の後姿に抱きついた。
「馬鹿!馬鹿!!どこ行ってたのよ!」
「え?」
そう言って、振り返ったのは快斗では無く新一だった。
「なんで・・・新一、が・・・?」
行方不明だったはずの新一がどうしてここに?
新一はいなくて、私は快斗と付き合い始めて。
あれ?・・・・・本当にそうだったけ?
まだ夢の中にいるような自分の頭を必死に叩き起こし脳味噌をフル回転させた
新一は私のところに帰ってきてくれて、そばにいてくれて。
快斗の事は、好きだったけど・・・新一が帰ってきたからって私が振った。
一度も会っていない。
・・・・・・・・・・・・・・これが、現実?
「どうした?蘭??」
新一が青い顔をした蘭を心配そうに声をかける。
そう、私は新一と付き合っていたんだ。
高校三年の時に新一が帰ってきて、快斗とは別れて。
新一と付き合い始めて、快斗とは会わなくなって・・・。
快斗と別れて一年も経つのに・・・今更、快斗の事を夢にみるなんて。
思い出すなんて。こんなのってないよ。忘れられたって思ってたのに・・・。
「・・・黒羽に会ったよ。今、そこで。」
新一の声に蘭は顔をあげた。
視線が絡み合う、新一は無言だったが言いたい事はわかった。
―――行けよ。
目が全てを物語っていた。
涙が後から後から留まりなくあふれ出す
何か言いたいのに言葉が浮かんでこない、何もいえない。
そんな蘭を諭すように新一がゆっくりとした口調で言った。
「俺はお前が好きだった。お前も俺を好きだった。間違いあるか?」
「・・・・・ない。」
涙声だったがはっきりと蘭は答えた。
「“だった”って過去形なんだぜ?・・・お前の心にいるの、今は俺じゃないだ
ろ。」
蘭は何も言えなかった。
それが返事だった。
「新一、ごめん・・・。」
「バーロ、謝るんじゃねーよ。」
新一の事も、本気で大好きだった。
でも、今は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
蘭は家を飛び出し快斗の元へ走り出した。
「損な役だぜ。」
新一が蘭のいなくなった室内で呟いた。
「快斗ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
前を歩く後ろ姿を見つけて蘭は叫んだ。
呼び止めたくて、振り向いてほしくて・・・
街中だとか、周りに人がいるとか、そんな事、もう、どうでもよくて・・・。
一秒でも早く快斗に会いたくて、蘭は何度も快斗の名前を叫んだ。
「快斗、快斗・・・か・・い・・・・・と・・・・・・・・快斗ッ!!!!」
前を歩いていた人が立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
形の良い赤い唇がゆっくりと動いた。
「・・・・・・蘭。」
快斗に呼ばれただけなのに、自分の名前がすごく愛しく思えた。
何度でも、何万回でも、呼んでほしいと思った。
快斗の深い色の瞳を見つめると中に自分が映っている。
彼の瞳に、私が映っている。それだけですごく嬉しかった。
会いたかったとか、もう一度付き合ってほしいとか、新一とは別れたとか、快斗が必
要だとか・・・、全部全部今更な気がして、言葉にしたら思いが全部壊れてしまいそ
うで・・・何か言葉を発しようと唇を動かすのに空気を切るだけで声にならなくて、
目の前に快斗がいるのに。夢にまでみた快斗がいるのに。言葉にならなくて見詰め合
うしかできなかった。
実際は1分にも満たないのに、まるで永遠にも思えるくらい長い沈黙。
その沈黙を破ったのは快斗だった。
「会いたかった。」
瞳が優しく蘭を見つめ、頬が緩み、口の端があがっている。
蘭の瞳を涙が濡らした。伝えたい思いはたくさんあったのに、実際言葉にしたのはひ
とつ。
この一言で全てが伝わった気がした。
「・・・快斗が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰よりも、何よりも・
・・すき。」
快斗は蘭の細い肩を壊れるくらい強く抱きしめた。
「もう、二度と離さない」
「二度と・・・・離れない。」
お互いの体が混ざりあうほど抱き合った。
蘭の頬にも快斗の頬にも涙が光っていた。
「・・・ぃ・・・・・・・・おい!!」
「え!?!?」
いきなり耳元で大きな声がしてビックリして蘭は飛び起きた。
目を開けると目の前に呆れた顔をした快斗がいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夢?」
今までのは全て夢だったのだ。
そう、1年前の二人の始まりの日の。
快斗が優しい目をして蘭を見つめながら聞いた。
「泣いてる。何の夢、見てたの?」
「・・・一年前の今日の夢。」
「あぁ・・・あの日か。」
「うん。」
「「忘れられないね」」
声が重なって二重になり二人はくすくすっと笑い合った。
付き合って、別れて、もう一度付き合って・・・・色んな事があった。
そして、これからも、いろんな事があるだろう。
だけど・・・・
いつまでも、一緒にいたい。
色んな季節を二人で過ごしたい。
ずっと・・・ずっと・・・・・・。
END
「・・・・・ドレス、着れた?」
言われて、自分の服に目をやるがまだ後ろのファスナーが閉まっていない。
「・・・・・もうちょっと待って!!」
「早くしろよっ!」
せかす快斗の声が聞こえた。
「ごめん!用意できた・・・」
振り向くとタキシード姿の快斗が立っている。
「「馬子にも衣装!!」」
二人の声が綺麗に重なった。
お互いにとても上品とは言いがたい笑い方をしている。
せっかくドレスとタキシードなのに気品の欠片もない。
ハッとしたように快斗が笑うのやめて、蘭に言った。
「あ!早くしろって、もう時間ないんだよ!!」
「そうだった!!・・・って快斗だってゲラゲラ笑ってたくせにっ」
「あぁ、もう悪かったって!ほら、しっかり正面見て。」
蘭はまだぶつぶつ言っていたが快斗に言われ正面を見直した。
二人して息を吸い込むと、同時に声を出し、また綺麗に声が重なった。
「「せーのっ、快蘭同盟1周年、おめでとうございまーす!!!!」」
そして、これからも・・・ずっと、ずっと・・・・宜しくお願い致します。
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